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INTERVIEW

合同会社舞台裏 / 香西 姫乃

裏から支える、演劇への尽きぬ愛

KEIEISYA PRIME

経歴

小学校2年生からNHK東京児童劇団で子役としてお芝居を始め、演劇にのめり込む人生を歩む。大学在学中に劇団Яeality(リアリティ)を立ち上げ、演出を中心に約8回の公演を行い、デザイナーとしてパンフレット制作など舞台裏も担う。大学卒業とコロナ禍が重なった2020年6月に友人からの出資を受け、同年9月に合同会社舞台裏を設立。俳優を支えるActorsHub、ActorsLab、演劇の技術をプレゼンに活かすTheFirstPassionを立ち上げ、表現者が安心して挑戦できる仕組みづくりに取り組む。

Q

御社の事業内容について教えてください。

私の事業は、俳優や演劇人が舞台に立ち続けられるよう「舞台裏の仕組み」を整えることを軸とし、ActorsLab・ActorsHub・The First Passion の3つの事業を展開しています。ActorsLabでは、価値観や強みの棚卸し、「自分をどう魅せるか」の言語化、オーディション対策まで、演技以外の準備を体系化しています。

ActorsHubでは、企業様からのCMやSNS出演などの案件紹介を中心に、HP素材での“社員キャスト”起用も行っています。また、テレアポ・データ入力・動画編集など、芸能活動と両立しやすい仕事を企業様と共に設計し、働き方づくりを支援しています。

TheFirstPassionでは、演劇がもつ「人前で伝わる話し方」の技術をビジネスシーンに応用し、プレゼンテーションやコミュニケーションを「相手に伝わる形」に磨いていくスキル講座・研修を提供しています。

Q

起業をするにあたって直面した壁や苦労はありますか?

一つだけ明確な壁に直面しました。2023年1月にLARP(ライブアクションロールプレイングゲーム)を世界で初めて舞台化したのですが、そのタイミングでコロナが広がり、客席が半減してしまいました。

さらに、舞台の助成金は事前に承諾が下りており、あとは終了報告をするだけだったのですが、お客様のペンライト投票によって物語が分岐する形式は演劇として認められないと返答があり、助成金が下りなくなりました。本来助成金でまかなう予定だった費用がすべて私にのしかかり、結果として大きな赤字を抱えることになりました。

その後はできることを積み重ねるしかなく、もがきながらActorsLabやActorsHub、TheFirstPassionを形にしていきました。取引先も俳優の登録も少しずつ増えており、確かな手応えを感じています。

Q

ActorsHubを運営していくにあたり大切にされていることはありますか。

私が経営で大切にしているのは、搾取をしないことです。CMなどのエキストラは、1日拘束されるにもかかわらず日給が5000円程度という世界なので、趣味ならまだしも、それだけで生活していくのは難しいと感じています。

芸術の世界はブラックボックスになりやすいので、お金の流れはできるだけ透明化しておきたいと考えています。そこでActorsHubでは、企業側に提示された金額の7割が俳優さんに、3割が弊社に入ると明示し、「誰にどこにお金が入っているのか」が分かるようにしています。

例えば俳優さんにタクシー代が必要になった時も「ここまでなら上乗せできるよ」ときちんと交渉できますし、みんなが不安なく続けられるセーフティーネットになればいいなと感じています。生活が豊かになれば芝居も豊かになると思っているので、舞台の上だけではなく、日々の暮らしもきちんと支えられるような仕組みをつくっていきたいです。

Q

現時点での目標や将来のビジョンについて教えてください。

私の目標は、自分が大きく豊かになることよりも、演劇をはじめとした表現の世界で、みんなが安心して活動できる環境を整えることです。年に一度旅行に行けて、気兼ねなくデリバリーを頼めて、毎日お芝居を観られるくらいの幸せがあれば充分で、それ以上は求めていません。

一劇団として業界全体を変えるのは難しいですが、システムや仕組み、セーフティーネットのようなものを作ることで、演劇を続けやすい環境を整えることはできると感じています。資金的な余裕が出てきたら、この仕組みを演劇だけでなく、バンドやダンス、オペラやバレエなど、ほかの芸術分野にも広げていきたいです。

搾取や怖い思いをしたという話をよく聞くからこそ、舞台の上だけで輝くのではなく、生活も充実し、夢ややりたいことを気兼ねなく続けられる環境をつくりたいと考えています。

(取材者:山田のコメント)演劇を「仕組み」から支えようとする視点に、衝撃を受けました。ご自身の幸せよりも、表現者が安心して挑戦し続けられる環境づくりを優先しており、柔らかな雰囲気の奥から、覚悟と優しさの両方が伝わってくる、たいへん印象的な取材でした。

企業名
合同会社舞台裏
代表者
香西 姫乃
所在地
東京都渋谷区恵比寿西1-33-6-1F
設立
2020年9月
事業内容
  • ・俳優キャスティング / 支援システム「ActorsHub」の運営
  • ・俳優の自己ブランディング支援「ActorsLab」の運営
  • ・演劇的手法を用いた表現力 / プレゼンテーション講座「TheFirstPassion」の運営
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